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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)941号 判決 1956年9月06日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人伊藤清の上告趣意第一点は、公職選挙法二二四条の解釈・適用を誤った違法があると主張する。本件において被告人は、石沢に対し選挙人三好に供与すべきものとして金三百円を交付し、石沢は翌日これを三好に手交したところ、さらにその翌日三好は該現金をそのまま石沢に返還し、石沢は即日これを被告人に返還したものである。所論のように、なるほど被告人は、他より利益を交付され又は収受したのではなく、自己の交付した金の返還をうけたに過ぎないものであって、前記法条にいう「収受し又は交付を受けた利益」に当らないから、同法条によって没収または追徴することができないように一応考えられないこともない。しかし、該現金は、三好にとっては収受した利益であり、石沢にとっては交付を受けた利益であり、共に前記法条によって没収または追徴することができるわけである。そこで、かかる利益が、被供与者から供与者に返還せられ、さらに供与者(受交付者)から交付者(被告人)に返還せられた場合には、被告人から没収または追徴をなすべきものと解すべきである。けだし選挙運動もしくは投票の報酬として一旦授受された利益又は価額は常に国庫に帰属せしめ、その授受者をして犯罪に関する利益を保持し、または回復せしめざるが法意であるからである(大審院刑判集一巻二九六頁、同九巻一一号七七二頁参照)。それ故、原判示は正当であって、論旨は採るをえない。同第二点は、量刑不当の主張に帰し上告適法の理由に当らない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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